被相続人がすべての文章を自分で手書きする自筆証書遺言書。 書き方の基本ルールや注意点に気を付ければ、用意するのもあまり難しいものではありません。
前回までのコラムに引き続き、今回も、円満相続のための自筆証書遺言書の準備の仕方をお伝えいたします。
遺留分に気をつけた遺言を残しましょう
遺言書では、遺産分割の指定をおこなうことができます。 この時、気を付けるべきなのは、一定の法定相続人が最低限の権利として持っている「遺留分」です。 遺留分についてのコラムはこちら
遺留分の権利があるのは、配偶者、直系卑属(子ども、孫など)、直系尊属(父母、祖父母など)です。
遺留分はそれぞれ、配偶者が4分の1、子どもが4分の1(子ども二人の場合はそれぞれ8分の1、3人の場合はそれぞれ12分の1)になります。
今回は子どもの遺留分についての例をご紹介します。
子どもが持つ遺留分の具体例
Aさんには配偶者と二人の子ども(長男、長女)がいます。 長男夫婦はAさんと同居していますが、長女は結婚して家を出ています。 そこで、Aさんは次のような遺言書を作りました。
配偶者○○○に財産の2分の1を相続させる。
残りの2分の1を長男○○○に相続させる
この遺言書では、長女には相続分がありません。 しかし、長女には遺留分として財産の8分の1を相続する権利があります。 Aさんの遺言書はこの遺留分を考慮に入れていなかったため、もし長女が遺留分を請求してきたら、Aさんの配偶者である奥さんと長男は、それぞれ相続した分から差し引いて、長女に8分の1の額の財産を渡さなければいけなくなります。
こうしたトラブルを避けるためにも、最初から遺留分を含んだ財産分割の遺言書にする必要があります。 遺言書を作る際には、相続人の遺留分を侵害していないか注意しましょう。
もしもに備えた予備的遺言を用意しましょう
配偶者と子どもに財産を相続させると遺言書に書いても、遺言者が亡くなる前に配偶者や子どもが先に亡くなってしまうことがあります。 その場合、新たに遺言書を作り直せばいいのですが、それができないまま遺言者であるあなたが亡くなってしまうと、あなたの遺言書は亡くなった方についての部分が無効となり、財産の相続はあなたの意思とは違った形でおこなわれることになります。 それを防ぐためには、遺言書の中に「予備的遺言」を書き加えておくといいでしょう。
予備的遺言とは、相続人が遺言者より先に亡くなってしまった場合をあらかじめ想定した遺言のことです。 例をご紹介いたします。
1)「全財産を妻○○○に相続させる(子どもと直系尊属がいない場合)」と記載した遺言書の場合
このケースでは、もし妻〇〇○が遺言者よりも先に亡くなったとき、財産は遺言者の兄弟姉妹が相続することになるので、遺言者の意思とは異なった結果になってしまいます。
2)「自宅の土地建物を長男○○に、定期預金を次男○○に相続させる」と記載した遺言書の場合
このケースでは、もし長男○○が遺言者よりも先に亡くなった場合は、長男が相続するはずだった不動産は長男の子(代襲相続)と次男の間で分割協議をしなくてはいけなくなります。 分割協議は、相続トラブルの元となりやすいため、こうした状況にならない準備が必要となります。
上記は一例ではありますが、こうしたトラブルを避けるために、予備的遺言を遺言書に加えましょう。
1のケースの予備的遺言の書き方
全財産を妻〇〇○に相続させる。 遺言者の死亡以前に妻○○○が死亡したときは、遺言者の全財産を○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
2のケースの予備的遺言の書き方
自宅の土地建物を長男○○に、定期預金を次男〇〇に相続させる。 遺言者の死亡以前に長男○○が死亡したときは、○○の長男○○に前条記載の財産を相続させる。
相続以外の財産の活用方法『遺贈寄付』
自分が死んだあと、遺産を社会貢献のために役立てて欲しいと希望する人が近年増えています。 生涯独身であったり、最後に社会に役立つ形で自分の人生を終えたいと考える方の増加といった背景があります。 自分の死後の相続財産を相続人ではなく公共団体や学校や福祉施設などに寄付することを『遺贈寄付』と言います。
遺贈寄付には、注意すべきことがいくつかあります。
不動産の遺贈は注意が必要
現金や預金の金融資金ならば問題なく歓迎されるでしょうが、不動産の遺贈はそのまま受け入れられるとは限りません。 なぜなら、団体がその活動のために不動産をすぐに活用できるのならば別ですが、多くはその不動産を売ってそれを活動資金に充てるケースが多いからです。 それだけ手間と負担がかかるので、「不動産の遺贈寄付はご遠慮したい」ということになりがちなのです。 また、不動産の遺贈寄付には、税金をめぐって寄付された団体と相続人の間でトラブルが発生する可能性があるため、注意が必要です。
受け入れ側の制約を確かめておく
あなたが○○団体に遺贈寄付したいと思っても、あなたの意向だけで決まるわけではありません。 相手側が寄付を受け入れているかどうか、受け入れ財産に制約があるかどうか、それを確かめてから遺贈先を決めましょう。
相続人の遺留分を超えない寄付にする
遺贈寄付をするという遺言書を書いても、相続人の遺留分を侵害する内容だと、寄付された団体と相続人の間にトラブルが起きる可能性があります。 そのため、相続人の遺留分をきちんと配慮した遺贈寄付にする必要があります。
遺贈寄付の書き方サンプル
遺言書の中での遺贈寄付の書き方について、サンプルを示します。
遺言者○○は、遺言者の有する次の預金を一般社団法人○○○に遺贈する。
○○銀行○○支店遺言者名義の定期預金 口座番号○○○○
遺言者○○は○○県大地震被害者のために、遺言者の有する金融資産から金〇〇万円を○○県に遺贈する。
残金の金融資金は長男○○に相続させる。
このように、遺贈寄付の場合の表記は「相続させる」ではなく「遺贈する」と書かなければいけません。 また、遺贈する定期預金の額もしくは金○○万円は、法定相続人の遺留分を超えない金額、ということが前提です。
遺言書に遺贈寄付を入れたときは、その遺言がきちんと実行されるように、遺言執行人を必ず指定しておきましょう。
遺言書を書いた後に
遺言書の内容が決まったら、清書する前に一度下書きをしてみるといいでしょう。
内容に誤りや記入漏れがないか、そこで再度チェックします。
清書した遺言書は、封筒に入れて封印します。
これは特に法律で決まっているわけではありませんが、改ざんや変造の防止、保管の便宜を考えたならば、密封しておいたほうがいいのです。
封筒には、遺言書であることを表に明記し、裏には「開封を禁ずる。遺言者の死後、家庭裁判所で開封し検認を受けること」といった添え書きをしておくと、より親切です。
また、遺言書の保管には「安全に保管ができ、そのときになったら遺言書があることがわかる場所」を考える必要があります。 多くの人は、次のようにしています。
・自宅の金庫
・自宅の仏壇
・銀行の貸金庫
・信頼できる家族や知人に預ける
・遺言執行者に預ける
遺言書を書いた事実と保管場所は、配偶者や家族には伝えておいた方がいいと言えます。
なお、遺言書は何度でも書き直すことができるため、財産の状況が変わったり、相続人に対する気持ちが変わった時などには、すでに書いてある遺言書の内容を変更できます。
複数の遺言書があるときには、日付の新しいものが有効になります。
ただし、遺言書は最初に書くときも書き直すときも、はっきり自分の意思で書いたことを示しておく必要があります。
遺言書があっても起きるトラブルの一例として、遺言書は遺言者の意思で書かれたものではなく相続人の誰かのが無理やり書かせたものだと主張したり、遺言書の日付のときには既に認知症になっていたため書かれてある内容は信頼できないと言われることがあります。
相続人の死後、医者が認知症ではなかったといっても、認知症ではない証明書がない以上は、財産が欲しい人は自分の都合に合わせた主張をおこなうことがあります。
そういったトラブルが起きないようにするには、遺言書を書いたとき自分は認知症ではなかった、という証拠を残しておく必要があり、そのためにおすすめなのが、ビデオ画像の活用となります。
ビデオ自体は遺言書にはなりませんが「○月○日の遺言書は私が今こういう状態で、内容については私の意思能力に問題はない」と語っているビデオテープと遺言書を一緒に残しておくことにより、確実な証明となります。
自筆証明書は、意思能力がはっきりしている元気なうちに作っておくようにしましょう。
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